建築にさかのぼって-Back to an Architecture-

1、はじめに

 現在、地球温暖化に代表されるさまざまな環境問題によって、地球は危機的な状況に直面している。そんななか、持続可能な社会の実現に向けて、環境に配慮した建築の構築が重要課題とされており、環境負荷の小さな建築や、さまざまな「自然建築」の在り方が模索されている。具体的には土や藁(草)、石などの自然素材をできるだけそのままの状態で建築資材とする工法が模索され、太陽光や地熱などの非化石燃料をエネルギー源として活用する建築が積極的に開発されている。

 筆者は2001年から土嚢を積み上げて作る建築?「土嚢建築」(earthbag architecture)*1-を世界各地で手がけてきた。「土嚢建築」は現地の土を土嚢に詰めてブロック化し、それを積み上げるだけで建設可能な構法であり、建築廃棄後も大地に還元することができ、環境負荷が小さい「自然建築」として世界で注目を集めている。

 また、2002年には建築家:井山武司*2(太陽建築研究所主宰)のもとで、極めて高精度のパッシブソーラーハウスの研究開発の現場に身を置いた。パッシブソーラーシステムは太陽エネルギー(熱と光)の受容と排除を、開口の開け方(方位と面積)と外断熱および換気方式の組み合わせにより可能な限り効率よくおこなうことで、一年を通して極めて快適な温熱環境を獲得する技術である。

 「土嚢建築」もパッシブソーラーハウスも、環境負荷の小さいことに大きな特色があり、 それゆえに世界で大きな注目を集めている。しかしながら、これらの建築技術を身につけ、世界のさまざまな地域の異なった状況下で実践を重ねつつ、その都度その在り方を再考するにつれて、これらの建築には環境負荷の大小だけで評価できないもっと大きな可能性があるのではないかと思うようになった。それは、おそらく建築の根源ともいえる場での可能性である。

 本稿では、まず筆者が世界各地で展開してきた実践例について紹介し、そこにどんな問題や発見があったかを記述したい。次にそれらの問題点や発見は、今後のありうべき建築を思考する上でどのような可能性を導くのかを素描してみたい。

*1 「土嚢建築-Earthbag Architecture-」はイラン人建築家:故ナアダ・カリーリ氏が開発したものである。彼が主宰するカリフォルニアのカルアース研究所では1991年に耐震実験によって統一建築法規(UBC)の基準をクリア、その後96年には国際建築会議(ICBO)の認定を受けている。

*2 山形県出身。太陽建築研究所主宰。高精度のパッシブソーラーシステムを主技術とする「太陽建築−SOLARCHIS-」を数多く手がける。1999年建築フォーラム賞受賞。2002年環境やまがた大賞受賞