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双隧の間

■構想
長新太の絵本展示と読書室を兼ねた小さな空間計画である。長新太は日本で最も重要な絵本作家のひとりであり、その混沌とした生命力と飛び切りのユーモアは唯一無二の幻想世界へと読者を誘う。この小空間は金沢21世紀美術館の企画展「内臓感覚 遠クテ近イ生ノ声」への出展製作作品である。設置場所として用意されたのは美術館内の通路スペース。ここは大きな白い湾曲壁がひときわ目につく。真っ先にこの壁一面を絵本の展示台とし、ここを中心とした空間を「聖域」としての読書室にしようと着想した。この空間の外側にはL型の通路空間が設置される。L型を形成する二つの翼廊は聖域へと至る参道をイメージしている。朱に彩られた二つのトンネル空間が交わる場所。そこが聖域への入り口である。朱の空間の高揚感の中、来場者は絵本と出会い、その後、長新太の世界へ旅立っていく。ちなみに「双隧の間」とは「双子のトンネル(隧道)の間にある場所」をいう。隧道の「隧」とは死や異界へと至る道を古来考えられてきた。そういった異界への旅立ちを可能にする場所を願って銘々した。

 

■構想と機能、そしてカタチへ
絵本は幻想的な夢で満ちている。そんな本の世界へ入り込む読書室は聖域あるいは異界への入り口であるべきだと考えた。しかしながら、当美術館にはあまりにも多くの来館者があり、常々混雑する。これでは読書に集中することがのぞめない。そこで読書室と通路スペースを思いきって分離することにした。L型の通路スペースを設けることで、白い湾曲壁とL型空間の挟まれた三角の余地ができる。ここを読書室とした。もし来館者が絵本に関心がない場合は、純粋に朱に彩られた通路を通り過ぎていくことを楽しめばいい。絵本に少しでも惹かれたならば、L型通路の交差部から読書室へと歩を進めれば良い。一旦そこに入ったならば、通路の喧噪は後退し、白い湾曲壁にズラリとならぶ絵本と対面することになる。あとは読書の世界へと没頭できるのだ。

 

■カタチを具体化すること
L型通路の素材はたった二種である。一方は45mm角の角材。他方は12mm厚のコンパネである。このトンネル型通路は17基のA型をした架構で形成されている。これら架構は短い梁と、コンパネでジョイントされる。各、A型断面は4mの角材が7つあれば事足りる。この規格化により、建設プロを介在せず、たった3日で建設を終えることができた。もちろんかなりのローコストである。解体にいたっては、たった3時間しか要さなかった。解体後、A型断面は別な敷地へと輸送され、次なるプロジェクトの部材として組み込まれ、蘇る日を待っている。